「俺がついてきた意味ないんじゃねえの?」
前を歩くディークが呟く。もう何度も聞いた台詞だ。
「そりゃあ確かにリグレの周辺は守ると言ったぜ?
だけど今回の道中は別だろーが」
「五月蝿いですわね!嫌なら帰って下さって結構ですのよ!
あなたより優秀な剣の使い手もいることですし・・・」
にこっと笑い、彼女は俺の方を見る。
「ね?」
「・・・・・・」
黙っていると、ディークがじろっと睨んだのが分かった。
「おいルトガー、おまえも何か言いやがれ!
さっきからおまえのお姫様が五月蝿いんだよ」
「五月蝿いのはあなたでしょう!!
だいたいエトルリアに戻ってからずっとそうじゃありませんこと!?
・・・はっ!もしかして、妬いてるとか・・・!?」
「まーったく何を焼くんだよ!?餅か?魚か?菓子か?
焼く・・・いや、妬くはずないだろうが!
・・・・・・・・・はぁ、次にシャニーと会えるのはいつだろう・・・」
結局、ディークは天馬騎士団に入るシャニーを見送った後、月に一度程会っているらしい。
寂しいらしく、最近は機嫌を損ねることも多い。
かくいう俺は・・・
「でもよくおまえの両親は認めたよな・・・感心するぜ、ったく」
「あら、ああ見えても私の両親は他人を見抜く力を持っておりますのよ」
ディークは、ふーっとため息をついて笑った。
「どうだか・・・だってルトガーを一目見ただけで
『娘と共にリグレ家を継いで下さい』なんて言っちまう位だからな・・・
顔に騙されたんじゃねえの?」
「ま!お父様とお母様を馬鹿にしましたわね!!」
――・・・ともかく、これから俺たちはブルガルの丘に建てられた教会に行くことになっている。
"若き獅子"ロイと共に戦い、デュランダルの剣士として魔竜を封じに行ったことを、故郷の皆に報告しなくてはならない。
「・・・あ!あの建物じゃねえのか?」
ディークが指した方を見ると、美しい小さな教会があった。
「・・・綺麗・・・あんな所で結婚式を挙げたら一生幸せになれそうですわ・・・」
「十分幸せそうな顔してるだろうが」
「ああもうディーク!またあなたですの!?
レディの言葉にいちいち文句つけるのは!!」
「・・・静かにしろ、二人とも」
"風"が心地良い。
今までもそうであったように、これからも俺たちを導いてゆく"風"―――・・・
・・・エトルリアの古い文献によると、リグレ家の代々の当主の中に、
"デュランダルの剣士"と呼ばれる男がいたという。
そして、サカの古い民話では、ブルガルの丘の小さな教会で
誰よりも幸せな結婚式を挙げた、
他国の貴族の少女とサカの剣士の事が語り継がれている・・・・・・