青空が眩しい。
丸一日暗闇にいたからだろうか・・・一緒に「竜殿」から脱出した仲間たちも、目を開け辛そうにしている。
「姉さん!」
ツァイスが手を振って駆け寄ってきた。
「よかった。無事だったんだね」
「もちろんよ・・・このマルテが守ってくれたから・・・
そういえば、エレンは?」
「ギネヴィア様に呼ばれて、あっちのテントに・・・なんか重要な話とか」
「話?」
「ベルンの・・・これからについて・・・らしい」
動乱は終わり、「第二次人竜戦役」も魔竜の封印をもって幕を閉じた。
ゼフィール国王を失ったベルンは、エトルリアに一度は解体されたものの、
ロイ様の助力で「新生ベルン王国」として出発することができた。
そして、新たにベルンを治めるのは―――
「ギネヴィア様!」
久しぶりに王宮に戻ってきた私は、まずギネヴィア様に顔を見せた。
「あ、いえ、女王陛下・・・お久しぶりです。実家に顔を出していたもので」
「そんな、硬くならないで、ミレディ。ご両親はお元気だった?」
少し疲れたようだったが、ギネヴィア様は前のように笑った。
「そういえばね、ツァイスがとエレンも少し前に来てるのよ」
「ツァイスも・・・?そうですか・・・道理で実家にも行っていないと思ったら」
ギネヴィア様は、私の手を取って嬉しそうに言った。
「とてもいい知らせがあるの。あなたに知らせたくて」
「姉さん、こっちこっち。この部屋!」
廊下でツァイスとエレンが手を振っていた。
「ツァイス!実家にも寄らないで、あなたは・・・父上や母上も、顔を見せろと・・・」
「姉さん、その話は後で」
「?」
ツァイスは部屋のドアを開けた。
「さ、早く入ってあげて下さい」
エレンが私の背中を押した。
寝台に横たわっていたのは、紛れもなくゲイルだった。
「ミレディ・・・」
私は、呼ばれるままに枕元に駆け寄った。
ゲイルは、私を見て微笑った。
「・・・本当に・・・?・・・本当に・・・ ・・・ゲイル・・・」
何か沢山言いたいことがあったのに、言葉が詰まって言えなかった。
「・・・ミレディ・・・すまなかったな・・・」
ゲイルは私の顔を引き寄せ、涙の後を舐めた。
「・・・ううん・・・もう・・・いい・・・」
彼の手が、頭を優しく撫でる。
「・・・命を捨てるのはもうやめた・・・もう、おまえの側を離れない」
「うん・・・うん・・・」
また涙があふれてきて、頷くことしかできなかった。
ゲイルは困ったように私を見た。
「また泣かせてしまったな・・・」
彼はゆっくりと上体を起こし、もう一度私の顔を引き寄せた。
私も彼を見つめ、目を閉じた。
夕日が落ちようとしている。
ベルンの山々が夕焼けに美しく映える。
「綺麗だな・・・」
トリフィンヌの後ろに乗ったゲイルが呟く。
私は振り返って彼を見た。
風が、彼の長い髪を優しく揺らしている。
「きっと、ベルンを昔以上に豊かな国にしよう。
おれたちでベルンを創り直そう・・・」
「・・・そうね。こんなに・・・美しい国だもの・・・」
大丈夫。
どんなに苦しいときでも、諦めさえしなければ。
きっと、私たちが夢見た世界になる。
今なら信じられる。
"風"が導いてくれると―――