あなたと
「待って!ゲイル―――!!」
半ば悲鳴をあげながら、トリフィンヌの速度を上げた。
マッテ。
オイテイカナイデ。
ワタシヲヒトリニシナイデ―――
愛する人から離れ、ましてや敵と通ずるなどしたくなかった。
しかし私は故郷ベルンと向かい合い戦わねばならない。
私は、ギネヴィア様の騎士なのだから。
孤独に耐えることにも、慣れてしまった。
だけど。
もう一度。もう一度だけ、声が聞きたい。
あの後ろ姿を見失ったら、もう二度と会えなくなるだろう。
ロイ様達は、今頃「封印の神殿」で戦っている。
マードック将軍が倒れ、神殿が制圧されたら・・・
命を絶つつもりなのでしょう?人一倍、忠誠心の強いあなたは。
彼は、こうなることを知っていたのだろうか。
山合の教会に向かって飛竜を急降下させた。
私も飛竜を急降下させながら、横目で神殿の方を見た。
―――白旗。
「・・・ゲイル!!」
彼を追って入った小さな教会には、逃げたか戦に駆り出されたのか、僧侶一人いなかった。
彼は、細い一本の槍を握っていた。
私の声に、静かに振り返る。
「・・・ミレディか。ついて来たのか」
「あなたに・・・もう一度・・・会いたくて」
「そうか」
ゲイルは前に向き直った。
「・・・マードック将軍が倒れたのは知っているな」
「・・・ええ」
「・・・なら・・・おれがこれからどうするか・・・分かるな」
「・・・・・・」
ゲイルは、槍を握る手に力を込めた。
彼がその槍で何をするかなど、言われなくとも分かっていた。
だけど・・・もう、会えなくなると考えると。
「・・・ゲイル・・・でも・・・、お願い・・・」
私の手が反射的に動いて、彼の腕をつかんだ。
「・・・ミレディ・・・、・・・頼む・・・ ・・・分かってくれ・・・」
「嫌!嫌よ・・・・・・ゲイル・・・」
私は、彼が「そう」しまいと、必死で彼の槍をつかんだ。
「分からないのか!」
「だったら私も一緒に死ぬ!」
ゲイルの顔がさらにこわばった。
「ならん!」
そう言って、必死でつかむ私の手ごと槍を引き寄せた。
何か・・・突き刺さるような、嫌な音がした。
「・・・・・・ゲイル・・・?」
槍をつかんだままの私の手から、ゲイルの血が滴り落ちる。
ゲイルは、力を込めて脇腹から槍を引き抜いた。
私は、自分のものではない血で染まった手を、呆然と見ていた。
「・・・嘘・・・嘘でしょ・・・ゲイル・・・ ・・・どうして・・・」
涙が、次から次へと落ちる。
ゲイルは、血まみれの手で私の涙を拭った。
「・・・すまない・・・おれはもう、こうするしか・・・ 泣かないでくれ、ミレディ・・・」
「・・・だって・・・もっと、あなたと・・・一緒に、いたかっ・・・」
その瞬間、彼の全体重が私にかかった。
「・・・・・・ゲイル?」
しゃがむようにして、彼の上半身を支えながら血に染まった床に寝かせる。
すでに・・・ゲイルの目は閉じていた。
「嘘・・・ねえ・・・そんな・・・・・・っ」
マタ、ワタシハヒトリニサレルノ―――?
どれくらい、彼を抱いて泣いていただろうか。
「姉さん!!」
ツァイスがものすごい勢いで教会に入って来た。
私は、呆然としてツァイスを見つめた。
「・・・ツァイス・・・?」
ツァイスは、私からゲイルを引き剥がした。
「何ボーッとしてんだよ!早くしないとゲイルさんが」
「もう・・・遅いわよ・・・もう・・・ゲイルは・・・」
「・・・まだ息はあります!」
エレンだった。
「エレン!」
ツァイスが叫んだ。
エレンは、リカバーの杖を取り出し、ゲイルの上にかざした。
「・・・大丈夫・・・私が助けてみせます・・・」
ゲイルを、柔らかい光が包み込む。
エレンは、私を見た。
「ミレディ様・・・私を信じてください・・・」
「・・・エレン・・・・・・」
ツァイスも、私の手を握った。
「姉さん・・・後はおれたちに任せてくれ。姉さんは、これをもってロイ様達と進んで。
おれたちも後から行くから・・・ゲイルさんは絶対助ける!」
そう言って、私にマルテを手渡した。
「ほら姉さん、泣いてばかりじゃダメだよ・・・
姉さんはおれたちの誇り・・・『神将』の名を継ぐ人なんだから!」
誇り・・・?私が?
ツァイスや、エレン達の・・・?
ワタシハ、ヒトリジャナイ―――?