今日は厄日




「とことんツイてないや・・・」
これで何度目だろうか、エルクは呟いた。


ネルガルの手下ソーニャに殺されそうになったニノとジャファルを助けるために、エリウッドとヘクトルは2人の後を追い"水の神殿"に乗り込んだ。 黒い牙の第2の"アジト"だということから敵の数が多そうだと予想され、精鋭が選ばれて出撃していた。
エルクも、その精鋭に選ばれた一人であった。
自分の能力を買ってくれていることは、嬉しい。ただ、連戦に連戦を重ねているというのに、夜更けに叩き起こされた上に最前線に連れて行かれるのは少し理不尽ではないか、と思う。
しかも、"水の神殿"に仕掛けられた罠が、また厄介なものであった。
いくつかの床が、小島のように水に浮いていて通路で繋がっているのだが、時々、魔法で操られているかの様にその通路が消えるのだ。
・・・エルクは、この罠に見事に掛かってしまったのだ。
増援部隊を一掃した後、仲間たちの方へ戻ろうと通路を半分走ったところで、体重を支えている物がなくなり、水の上に放り出された。


とりあえず安定を確保しようと、水中で足を動かし足場を探した。だが、お世辞にも背が高いとは言えないエルクに、届く足場は無かった。
泳ごうにも、泳いでいる最中に敵に襲われたら最後だ。エルクは、手元の魔道書を見やった。水浸しではあるが、文字は消えていないようなので使える・・・と言いたい所だが、これは雷精の書である。 雷撃が少しでも水に触れたら、こうして水に浸かっている自分も一緒にお陀仏だ。
考えた挙句、エルクは救援を請うことにした。
持っていたリブローの杖に魔力を込め先端の宝玉に光を宿させると、それを出来る限り高く掲げて左右に振った。


「・・・?向こうで光が動いてますね」
はじめに気付いたのはプリシラであった。続いてヘクトルが首をかしげた。
「なんだありゃ?何かの杖の光みてぇだが・・・」
「・・・って、あそこにいるの、エルクじゃない!!」
叫んだのはセーラだった。一同は驚き、目を凝らしてそちらを見やった。紫の髪に赤のマントという印象的な色合いは、見まごうことなくエルクであった。プリシラは呟いた。
「・・・気の毒に。エルク、罠にかかってしまったのね・・・」
「・・・確かあいつは、軍で屈指の実力だが幸運の低さだけはピカイチだよな・・・」
"部隊表"を見ながら冷静に述べるヘクトルに、セーラはライブの杖で突きをかました。
「そうじゃないでしょう!!早くエルクを助けることを考えて下さい!!」
「なんだ、セーラ。お前やけに乗り気だな」
言われ、セーラは胸を張った。
「当然でしょう!?エルクと私は愛し合っているんですから!!」
「「はぁ!?」」
セーラのトンデモ発言にまず反応したのはヘクトル、続いてリンであった。
「・・・セーラ、あまり適当なこと言ってると後でエルクに殺されるわよ」
「失礼!!実際、私たち支援Aなのよ!!」
ギャーギャー騒ぐ3人を尻目に、ヒースは愛竜に乗りプリシラに声をかけた。
「俺が救出してくるよ」
「それが一番ですね。・・・気を付けて、行って来て下さいね」
「ああ、行って来る」
そう言うと、ヒースはプリシラを引き寄せ、額にキスをした。ヘクトルとリンはもちろんのこと、ラブシーンに免疫のないニノは赤面して、卒倒した。


「セーラと本当に仲がいいんだな。毎回支援Aじゃないか」
救援に来たヒースの第一声に、エルクは思いきり体勢を崩し水を飲み、勢いよく咳き込んだ。
「・・・大丈夫か?」
「だっ、大丈夫なわけありません・・・」
ヒースに手を貸してもらってやっと飛竜に座ることのできたエルクだが、しばらく水浸しになっていたせいか、空気がとても冷たく感じられた。風邪をひきそうだ、思った。
「すぐに本隊に戻るから、しっかり飛竜の背につかまっているんだ」
「はい。すみません・・・」
そう言い、エルクがハイペリオンにしっかり手を添えた時。
「・・・!」
邪悪な波動に、一瞬包まれた。周囲を見回すと、敵のドルイドがこちらに向かって杖を掲げているのが目に入った。
「あれは・・・ ・・・バサークの杖・・・!」
呟いて、エルクは殺気を感じた。
あのドルイドは間違いなく自分達を・・・いや、正確にはヒースを狙っている。魔法から身を守る術を知らない竜騎士は、おそらく・・・
・・・エルクが考えるより早く、ヒースはスレンドスピアを手にし、自軍の方を向いた。
「・・・嘘・・・だろう・・・」
混乱状態になったヒースは、真っ直ぐ自軍目掛けて突っ込んでいった。


「きゃー!!嘘!!見てあれ!!」
セーラは、槍を振り回し突撃してくるヒースを指差した。辺りは、騒然となった。
「お、おい、誰かレストの杖持ってる奴いねえのか!?」
叫んだヘクトルの横に、プリシラが進み出た。
「私・・・私が、ヒースさんを止めます!」
プリシラはそう言うと、しっかりとレストの杖を握り締め、次第に近付いて来るヒースを見据えた。
「・・・プリシラ様!!後ろ・・・!!」
セーラが、プリシラに向かって叫んだ。
ヒースが頭上でスレンドスピアを回転させたのと、水中から現れた海賊がプリシラを狙って手斧を構えたのはほぼ同時だった。


ヒースが槍を振り回し始めたので、エルクは必死にハイペリオンの背に身を伏せた。
「と・・・父さん・・・母さん・・・僕も、そちらに参るかもしれません・・・」
半泣き状態でエルクがそう呟いた時。
ヒースが、必殺のスレンドスピアを投げた。


プリシラは、真っ直ぐにヒースにレストの杖を向け、祈った。
スレンドスピアはプリシラの肩をわずかにそれ、彼女に狙いを定めていた海賊に命中した。



・・・ずぶぬれな上に半泣き状態という何とも情けない格好のエルクは、数秒後に転げるようにしてハイペリオンから降りてきた。



「プリシラさん・・・すまなかった」
「ヒースさん・・・いいえ、皆もあなたも無事だったからよいのです・・・」
抱き合う二人を見て再び卒倒しかけたニノはジャファルに助け起こされ、周囲に野次を飛ばされた。
そして・・・本日一番の苦労人・エルクは、セーラの持ってきた毛布に包まりながら、今更ながら生きていることを喜んだのであった。



* おまけ *
「やっぱり女神像はエルク君にあげようかしら・・・」
パラメータ表を見て呟く軍師に、自軍2番目の不運王・ヘクトルは「なんだよそれ!」と反論したという・・・



《END.》






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