pet






その子は、まるで自らの存在を隠すようにしてたたずんでいた。
ぼろ布を目深にかぶり、視線を伏せ、決して誰にも見つからぬように。
声を掛けると、小動物のように敏感に反応し、ひどく警戒して。



そのくせ、手を差し伸べると、その大きな目でこちらを見上げ、縋るような表情になって。



この子をここで死なせるなんて出来ない――死なせたらバチが当たる、そう思った。






「何度言えば解るんですか!」
作戦会議用の天幕から、怒鳴り声が聞こえた。またか――ティアマトは前髪を掻き上げ、苦笑した。育て方を間違ったかしら?
「あなたは衛生兵でしょう!?何故そこまで前線に出たがるのですか!!」
「だって…」
彼が怒鳴る相手は大体一緒だった。彼は殊の外、その少女を大切にしている。
傭兵団長…彼が大事に思う友人の、妹だから?この戦いの鍵、メダリオンに関わりのある、数少ない人物だから?
…いや、どちらでもないのだろう。おそらくは…
「僕は… …あなたを死なせたくないから、怒るのですよ」
――そういうことだろう。






温もりを得たいのだ。そしてまた、自分も温もりを与えたいのだ。…ただ、不器用なだけで。






「ねえ、セネリオ?」
いつもの様に不機嫌な顔で天幕から出てきた少年をつかまえ、肘でこづいてやる。
「ミストとはどこまでいったの?教えなさいよ」
「なっ」
顔を覗き込むと、目は見開かれ、頬は真っ赤になる。感情を素直に表情に出せるようになったのは、間違いなくあの子のお陰だ。
「何を言うんですか、ティアマト!!ぼ、僕達は、大体っ…」
「もう、照れない照れない!誰にも言わないから、ね、教えてよ〜」






この子を、連れてきてよかった。だから、これからも死なせやしない。
死なせたりしたら、バチが当たるわ。







〈end.〉









セネミス前提、ティアマト+セネリオです。
タイトルのpetは、一般的な「ペット」ではなく、「お気に入りの人、大事なもの」の意味で受け取って下さい。
セネリオの生い立ちに関しては情報が乏しく手探り状態なので、あまり踏み込んだ描写はできなかったのですが…
でもまぁ、ティアマトさんにつつかれるセネリオと、セネミスが書けたから満足です(笑)

いつぞやの日記にアップしたものですが、リクエストがあったのでHTML化してみました。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いですv





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