Happy Happy Christmas



「…すまないが」
 声をかけられ、宝石商の男は顔を上げた。
「ん?ああ」
 見ると、銀に淡紫を重ねた髪色の若い男が、出店の前に立っていた。見た所魔法使いだろうか …商いを生業にする者の多いカルチノじゃあ見ない客だな…商人は物珍し気に男を見た。 が、男は商人の視線を気にする事なく、きわめて真面目な表情で尋ねた。
「浅葱色の髪に、この銀は似合うだろうか」
 そう言い、陳列している装飾品の一つ…銀細工のペンダントを手に取った男に、商人は笑いか けた。
「ああ、銀は何とも調和するからね、どの髪の色でも似合うと思うよ。…なんだい、彼女にプレ ゼントかい」
「…ま、そんなものだが…
 …そうだな…これを、頂きたい。いくらだ?」



 ポカラの里の、小さな食事屋。「聖夜」にかこつけて飲み耽る者も多いのか、いつもより賑や かな雰囲気だ。
 窓際のテーブルに頬杖をつき、エイリークは外を眺めた。窓の向こうには降りしきる雪が、中 からもれる明かりに照らされてキラキラと輝いていた。
「綺麗な雪ですね…」
 つられて、向かいに座っているサレフも、舞い落ちる雪を見た。
「…ああ、そうだな」
「ルネスでは、冬でもあんまり雪って降らないんです。ここと比べると結構暖かいから…」
「…そうか…」
 サレフが微かに笑いを浮かべると、エイリークは嬉しそうに話し出した。
「たまに雪が降ると、私はすごく喜んで…小さい頃は、兄にせがんで一緒に雪だるまを作ったり、 あ、雪合戦もしました。最初は渋っていた兄の方がかえって楽しんでたりして、結局夕方まで城 に戻らなかったんですよ」
 あの後父にすごく怒られましたっけ、と笑うエイリークを見、サレフも思い出を手繰り寄せた。
「…私も、小さい頃はよく両親に雪遊びの相手をせがんだものだ。雪兎を作って親にあげると、 とても喜んでくれてな…」
「ご両親…優しい方だったのですね」
 そう言うと、エイリークはふと寂しそうな表情をした。彼女の楽しい気分を邪魔してしまった 気がして、なんだか申し訳ない気持ちになったサレフは、話題を変えようと荷物袋の中から小さ な包みを取り出した。
「…そうだ、エイリーク殿…渡したい物があるのだが」
「…サレフ殿……そういえば、私も渡したい物があるんです。
 …気に入ってもらえるか、解らないんですけど…」
 そう言い、二人は交換するように包みを渡した。
「あ…あの、開けていいですか…?」
「…ああ、構わない。開けてくれ」
 包みを少し眺め、おそるおそる聞いたエイリークだったが、丁寧に包みを開けると笑顔になっ た。
「あら…」
 喜んでくれたようだ…彼女の表情を見てホッとしたサレフは、自分も包みを開けていいかと聞 いた。いいですよ…と答えると、エイリークはにこにこしながら、サレフの表情を観察し始めた。
 彼女がこういう風に振る舞うのはいつも、自分の反応を待っている時だ。もしかしたら、何か 私を驚かせる物が入っているのか…?サレフは考えを巡らせながら包みを開き… …やっとその 意味が解った。
「…これは…」
 明らかに驚きの表情を浮かべたサレフを見、エイリークは自分の包みの中身を手に取って言っ た。
「…こんな偶然って、本当にあるんですね」
「…ああ」
 驚いたまま、サレフも包みの中身−−銀細工のペンダントを手に取った。
「同じ品…ということはやはり、あなたもあの商人の所で…か?」
「カルチノでも指折りの宝石商がいつもやっている出店…って話を聞いたので、足を運んでみた んです」
「…指折り、か。陽気な商人だったな。彼女にやるのか、とからかわれた」
「私も!彼氏にやるのかいって言われました…」
 エイリークはくすりと笑った後、少し身を乗り出してペンダントを差し出した。サレフは、不 思議そうに彼女を見た。
「エイリーク殿…?」
「…サレフ殿の手で、付けてもらいたいのですが…駄目ですか…?」
「…しかし…」
 少し戸惑い、サレフは周囲を見回した。他人事を見物しようとする物好きはいないようだが…
「…あ…あの」
 ためらいがちに発せられた声が、サレフの思考を妨げた。
「…?」
 視線を戻すと、エイリークは顔を赤くして俯いてしまった。
「……」
「…言ってくれないと、解らないだろう…?」
「……」
「…エイリーク殿」
「……その… 
 …こ…恋人ですから… …だから…」
 言いあぐね、もどかしさと恥ずかしさで真っ赤になった顔を少し上げて、エイリークはサレフ を見た。
 彼女は、こんな風に不思議なほど自分を慕ってくれる。何故だろう?考えれば考えるほど解ら ない。…だが、自分にとって、彼女が愛おしく大切な存在であること、それは確かなのだ。彼女 も、自分をそんな存在としてくれているのだろうか? だとしたら…自分はなんという幸せ者だ ろうか。
 サレフはエイリークを見、小さく笑いかけた。
「…分かった。私が付けよう」
「…サレフ殿…」
 エイリークは、席を立ってサレフの隣に座った。そして一緒に、幸せそうに、笑った。

 


             [END.]



☆ 2004年クリスマスに配布した小説です。
  事前アンケートで「ほのぼの」路線に決定した・・・のですが、結局甘々ぽく・・・(笑)




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