哀花(あいか)



「花を・・・少し、いただけますか」
 いきなり訊かれたので、ルイーズはきょとんとしてエルクを見た。
「花?たくさん持って行っていいわよ・・・けれど、どうするの?」
 少し黙ったのち、エルクは哀しげな表情を浮かべて答えた。
「持って行ってあげたいんです・・・ ・・・父と母に。」


「わぁー、すっごい寂れた所ねー。草も生えてない!」
 乾燥して草一本生えていない土地を見、思わずセーラは声をあげた。
 隣を歩いていたエルクは、微かに笑って前を見た。
「本当に・・・何もない地だ。・・・作物一つ、ろくに作れなかった」
「・・・え?」
 エルクの呟きにセーラは足を止め、驚いてエルクを見た。
「エルク・・・?」
「・・・さ、急がないと。夕暮れまでにリグレに戻れないよ」
 綺麗に包まれた花束をきゅっと握り、エルクは駆け足になった。
 セーラは不思議そうにエルクを見ていたが、あわてて彼の後を追った。


 やがて見えたのは、小さな小屋。
 その崩れかけた入り口に、エルクはそっと足を踏み入れた。
 セーラも続いて小屋に入るが、やはり不思議そうに中を見回している。
「ねぇ、エルク?何なの、さっきから意味深なことばっか言って・・・」
 私もう帰る、と言おうとしたセーラは、エルクを見て言葉をのんだ。
 エルクは花束を床に置き、指を組み胸の前に持っていき、祈っていた。
「・・・父さん・・・母さん・・・ただいま。3年ぶり・・・だね。」
「・・・・・・!」
 するとエルクは、驚くセーラに向かって、笑いかけた。
「ここは・・・僕が生まれた家だ。そして・・・父さんと母さんが・・・死んだ場所だ。」
 驚きで目を丸くし言葉の見つけられないセーラから視線をそらし、エルクは父と母の見守る空間に話しかけた。
「花・・・好きだと思って、持ってきたよ・・・遅くなって、ごめん・・・
 パント先生とルイーズ様が選んで下さったんだよ・・・綺麗だろう?」
 エルクがそこまで言うと、黙っていたセーラが彼のマントを引っ張った。
「エルク・・・ ・・・私・・・私にも、祈らせて・・・」
 セーラは、じっと悲しげな目でエルクを見つめた。
 エルクは、一度目を閉じた後、一言、言った。
「・・・ありがとう」


「・・・僕は貧民の子だって知って、がっかりしただろう?」
 夕日を浴び長く伸びた影を見つめながら、エルクは訊いた。
「そんなことないわよ、エルクはエルクだもの」
「・・・珍しく、優しいことを言ってくれるね」
 どういうことよ、とふくれたセーラは、エルクの頬をつまんだ。
「い、いひゃいって、セーラ」
「あはは、変な顔〜」
 セーラは笑って、エルクから手を離した。
「・・・あんた、よく笑うようになったわね」
 セーラの言葉に、今度はエルクがふくれた。
 ふくれて、セーラのツインテールを引っ張りながら、それでも笑った。
「なんだよ、僕が笑っちゃいけないのか?」
 髪を引っ張られたセーラは、エルクの手を振りほどきながら、笑い返す。
「誰がいけないなんて言ったのよ!それよか、もっと笑いなさいよ!・・・でも」
「でも?」
「悲しい時は、ちゃんと泣きなさい。
 ・・・その時は、私も・・・ ・・・一緒に、泣いてあげるから・・・」
 そう言うセーラの語尾は、半分、泣き声だった。
 エルクはため息をつき、彼女に歩み寄った。
「・・・本当に、きみは・・・ ・・・自分で泣いて、どうするんだか・・・」


「お帰りなさい、ずいぶんゆっくりしてきたのね?」
 笑顔で出迎えるルイーズに、エルクは申し訳なさそうな顔をした。
「すみません・・・セーラがどうしても城下町に寄りたいって言うもので」
「どういうこと!エルクだって楽しそうだったじゃないの!」
「?」
 言い争いをはじめた二人に、ルイーズは笑顔のまま説明を促した。
 セーラはそれに気付き、少し肩をすくめた。
「エルクが、花の種を買ってくれたんです・・・今日、持って行ったのと同じ花の種を。
 それで、約束したんです。
 この種から芽が出て、大きくなって花が咲いたら、また一緒に供えに行こうって・・・」
「・・・あら、あら」
 ルイーズは、照れくさそうに笑うセーラと真っ赤になったエルクを交互に見た。
「じゃあその時は、"報告"もしなくちゃね?ねぇ、エルク?」
 エルクは真っ赤になった顔をルイーズに向け、困ったように叫んだ。
「るっ、ルイーズ様っ!!」




《END.》




******************************


親を失った悲しみから、少し立ち直ってきたエルク、というところでしょうか。
授業中に思いついて書いた話をほぼそのまま載せているので、構成も何もあったもんじゃありません(笑)

それでは、読んで下さってありがとうございました。



BACK